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新聞に書かれない戦争──                    020831

米ソ電子戦争

大韓航空007便撃墜事件の背後

野矢テツヲ(戦略研究家)


現在は高度電子技術の時代であり情報の時代である。米ソは単に核兵器を擁して対峙しているのではなく、平時にあっても高度技術を駆使した情報の戦いを繰り広げている。大韓航空機撃墜事件は、そのような米ソの“電子戦争”のもっとも生々しい事例であった。


 

大韓航空機撃墜事件とアメリカ軍の“電子戦勝利”

「戦って勝つのは次善の策にすぎない。戦わずして勝つのが最善の策である」と孫子はすでに2000年前に喝破している。今日、戦った場合に勝利者がいない超大国の核対峙のもとでは、“見えない戦争”によって戦わずして勝つのが選択の余地のない唯一の策であることは明らかである。
 約20年前、北太平洋から極東にかけての空域が、戦後もっとも決定的な米ソの“見えない戦場”となり、アメリカ側の一方的な勝利に終わったという事実は、自国の領土がこの戦闘空域の一部に含まれていたにもかかわらず日本ではほとんど知られていない。
 1983年9月1日に発生したいわゆる「大韓航空(KAL)007便撃墜事件」は、現代の軍事技術が生み出した最新の戦闘形態である“電子戦(Electronic War)”により米ソが直接干戈を交えた戦争であった。アメリカ側はこのとき、1発の弾丸も1基のミサイルも発射することなしに、一つの全面的武力衝突によって得られると同程度の重大な政治的目的を達成したのである。そしてソ連側は致命的敗北を喫したことを暗黙のうちに認め、全面的に屈服した。
 このことは、ソ連がそれまでの傍若無人の対外膨張政策を放棄したばかりでなく、それまでソ連戦略指導層の内部で決定的影響力を行使してきた軍部のタカ派と共産党中央の保守派による支配に代わって、ゴルバチョフを先頭とする革新文官の支配が確立した事実によってよく示されている。
 事件直後、アメリカおよび日本の政府当局が共同して展開した巧妙な情報操作と猛烈なプロパガンダのため、一般の日本国民が真相を正確に把握することはきわめて困難な情況にあった。
 しかし、事件後4年を経過した今日、少なくともKAL007便機のソ連領空侵犯は偶発的な事故によるものではなく、「ELINT(電子情報収集)」を目的とするオトリ飛行であったとの説が有力になっている。この説は、同機が、アメリカの戦略情報機関NSA(国家安全保障局)が、北太平洋空域におけるソ連軍防空システム、ひいてはソ連全域の核戦争通信指揮系統の緊急時における反応を調査するために意図的に領空侵犯を行わせた一種のスパイ機であったとするものだ。
 たとえば、自民党の代議士で作家の石原慎太郎氏は、雑誌『新潮』(1984年7月号)のエッセー「流砂の世紀に」の一節「情報の虚構」のなかで、韓国の高名な政治家の口からこの説を裏付ける証言を直接聞いたことを明らかにしている。またイギリス、オックスフォード大学のR.W.ジョンソン教授は、1986年11月にこの説を論証した著書『Shootdown - The Verdict on KAL007』を公表しており、日本での『悪魔の飛行計画』(ダイナミックセラーズ刊)の表題で全訳が出版されている。
 これらを含む多くの証拠や証言は、KAL機がこの種のオトリ機であった場合にのみ合理的で自然な説明のできる特異な事実を多数提示している。
 だが、この説が正しいとすると、そこには一つの重大な疑問が残されることになる。それは、軍人出身者とはいえ民間機のパイロットである千炳寅(チョン・ビョン・イン)機長が、自分自身と部下の乗組員たちのみならず、多くの一般乗客の生命をも危険にさらすこととなるこの種の飛行になぜ同意したのかという点だ。米韓関係当局からのよほど信頼のおける保証があったとすると疑問はとける。要するに、RC-135機などを用い、エリントやECMの最新技術を総動員して援護を行うので、撃墜されることはあり得ないと請け負ったのだ。
 事実、007便機はカムチャッカ半島のソ連領空に関するかぎり、かすり傷ひとつ負わずに無事突破することに成功した。これはソ連防空司令部や戦略指導者層にとって驚愕すべき重大事態だったはずである。ソ連全軍は第一級の緊急体制に入り、戦時以外には放射されないはずの機密のレーダー電波や通信電波が北太平洋と極東のみならず、ソ連全土の上空を飛び交った。アメリカ側が、そのエリント能力を動員してそれらの捕捉と傍受を行い、最大級の収穫を得たであろうことは想像に難くない。
 だが、この飛行の主要目的は単なるエリントではなかった。レーガン政権の対ソ戦略のかなめのひとつである「水平エスカレーション戦略」の発動だったのだ。すなわち、ソ連の侵出の可能性が中東で高まっていた当時の世界情勢下で、これを抑止するためにまったく別の地域である北太平洋でソ連領を“攻撃”するという一種のグローバルな陽動作戦である。
 そして、ソ連の報復核戦力の中核であるミサイル潜水艦隊の主要基地の一つ、ペトロパブロフスク・カムチャッキーの防空網がかくも容易に突破されたという事実は、ソ連戦略指導層を震えあがらせるに十分な効果をもっていたと見るべきであろう。

 

 

不法侵入機を見逃すソ連防空陣の大失態はなぜ起こったか?

 007便機が正面突破を行ったカムチャッカ半島南東岸の空域は、ソ連防空システムがもっとも強力な布陣を行っている重点防御地帯である。ここは、ソ連戦略ミサイル潜水艦の約30パーセントが基地としている軍港ペトロパブロフスク・カムチャッキーの正面空域であるばかりでなく、背後に広がるオホーツク海は、新鋭ミサイル潜水艦デルタ級の展開海面だからだ。もしアメリカがソ連に対する核先制攻撃を実施する場合、多数の核巡航ミサイル、ないしその母機が、この空域に向かって迫ってくることは間違いない。
 ソ連側の公表したところによれば、ソ連軍防空レーダーは007便機をペトロパブロフスク・カムチャッキーの北東800キロで最初に捉えたのは、GMT(グリニッジ標準時)で15時ごろのことだったと推定される。以後、18時38分ごろに、同機がサハリン西岸上空で、ソ連防空戦闘機の攻撃を受けて損傷、高度を下げて空中爆発を起こすに至るまで、この機はソ連の各種レーダーの視界内を終始飛び続けていた。
 したがって理論的には、ソ連側はこの間、007便機の位置を連続的にとらえ続けることができたはずである。しかし実際にはそうでなかった可能性がきわめて高い。なぜなら、ソ連側がこの最重要空域に不法侵入して通過していく007便機を、防空戦闘機によってもまた対空ミサイルによっても捕捉したり撃墜したりできなかったという大失態を演じたからだ。
 のちに西側の記者がこの大失態の原因についてソ連軍事当局者に尋ねたところ、「パイロットが酒に酔っていたので迎撃に失敗した」という返事であったという。
 では対空ミサイル部隊のほうはどうしたのか。やはり全員酔っぱらっていたのか。それともすべてのミサイルが故障を起こしていたとでもいうのだろうか。
 ソ連軍のある将官は、目標が民間機だったので対空ミサイルの使用はさしひかえたと主張したと伝えられる。しかしこの段階で、ソ連側が目標がまちがいなく民間機であったことを確認できていたという確実な証拠はない。ソ連政府の公式声明も、目標が民間機であったことは識別していなかったと主張している。
 だが仮にソ連側が民間機であることを確認していたとしても、それでミサイルの使用をさしひかえるということはあり得なかっただろう。第1にソ連の防空法によれば、領空侵犯機は民間機であるか否かを問わず撃墜してよいことになっており、第2に、アメリカ側が核先制攻撃を実行する際には民間機を巡航ミサイル発射母機として用いる可能性があることをソ連は承知しているからである。
 2時間後にサハリン上空に侵入した007便機を迎撃したソ連防空陣の不手際も目立った。ここでは迎撃戦闘機による007便に対する攻撃は、領空外に出てから行われた。仮に007便機がボーイング747を改造した発射母機であったとしたら、ソ連極東地域の重要軍事目標はほとんどすべて壊滅していたであろう。
 さらに防空戦闘機の発射した2発のミサイルのうち命中したのは熱追尾方式だけで、レーダー誘導方式のほうは外れている。なんら反撃手段を持っていない大型旅客機を目標とした空対空ミサイルの実弾攻撃成績としては低すぎる命中率であり、これも疑問を引き起こさずにはおかない。
 ソ連防空陣のこのような大失態や不手際を説明する合理的で自然な理由は、007便機が各種のECM(電子兵器対策)によって巧妙かつ強力に防護されていたというものである。ソ連側はのちに、少なくとも当夜カムチャッカにあって作動するはずだった探索用レーダー3基のうち2基が、完全に機能を失っていた事実を認めている。肝心なときに偶然2基の故障が重なったというのはできすぎな話である。
 この事実は、ペトロパブロフスクの地対空ミサイル発射基地が迎撃発射命令を受けたが、ミサイル発射管制誘導用レーダーがうまく動かず、007便機にロックオン(自動追尾)できなかった、と伝えられている事実とあわせて、強力な電波妨害ないし電波欺瞞が行われた結果と見るべきであろう。
 9月6日付のソ連共産党機関誌『プラウダ』の主張によれば、GMT13時45分から同18時49分までの間、ソ連のレーダーは、合計7機のアメリカの電子偵察機RC-135がソ連極東沿岸沖を飛行しているのを捕捉・追尾したという。またこの間、3隻のアメリカ艦艇がソ連領海のすぐ外側で探知されたという。
 これらの事実については、たとえば、アラスカ基地を発進した少なくとも1機のRC-135がカムチャッカ半島東岸沖を飛行中のKAL007便としばらくの間接近飛行していたという事実を、レーガン大統領も5日夜のテレビ演説で認めている。しかし同時に、同機はKALが“攻撃される1時間前にアラスカの基地に帰投した”ともつけ加えている。
 一方、9月8日の米軍極東放送(FEN)のニュースは、沖縄の嘉手納基地から発進した1機のRC-135が同時刻ごろカムチャッカ東海岸に達していた事実を報じている。さらに9月5日付の『ニューヨーク・タイムズ』紙は“情報当局者”から得た情報として、シェミア島を発進して同時刻ごろカムチャッカ半島東岸沖を飛行していた1機のRC-135がそのあとシェミア島に着陸したという。
 これらのRC-135型機の任務に関するアメリカ政府当局者の説明は、TELINT(ミサイルの発射実験などの際ミサイルの発するテレメーター信号を傍受分析する諜報作業)のためであり、9月はじめにソ連がこの空域を着弾地帯として予定していた新型ミサイル「PL-5」の発射実験の監視だったという。
 しかし、9月13日付『デンバー・ポスト』紙が伝えたRC-135型機のベテラン・パイロット2名の証言によって、アメリカ政府のこの説明はまゆつばであることが明らかになった。彼らによれば、同機が単にミサイル実験を監視する受動的傍受のみを任務としていたという主張をばかげているという。そして、むしろこれとは正反対に、同機は“われわれ”が“攻撃的性格”と考える多くの電子戦遂行能力をそなえているとしている。まず、すべてのRC-135型機は、ソ連側のレーダーおよび無線通信を妨害する能力を持っている。さらに同機は、たとえばベトナム戦争中に、北爆(北ベトナム爆撃)に出撃したアメリカのB-52爆撃機が北ベトナム側のレーダーなどに探知された場合、レーダー信号の解析や通信傍受により、つねにそれを確認してB-52に警告を発し、地対空ミサイルや迎撃戦闘機の攻撃からこれらを救い出す能力を発揮したという。

上のラインは国防総省の説明による大韓航空機の飛行高度、下は防衛庁のデータによるもの。国防総省の説明を裏づけるデータは存在しない。この食い違いは何を物語っているのか。単なる誤差というにはその差は大きすぎる。

 

アメリカのECM能力はこうしてソ連側を混乱させた

 レーダーに対するECM(電子兵器対策)、すなわち敵側のレーダーの機能を妨害するもっとも簡単な方法は、チャフと呼ばれる電波反射特性の強い材料(アルミ箔など)でつくった小片を空中にばらまくことだ。しかしこれは、あらかじめ相手側のレーダーが用いている周波数を知り、これに合わせた寸法の小片を用意しておく必要がある。
 次に簡単な戦術は、妨害電波をこちらから出すという方法である。たとえば無変調の連続波を用いて妨害を行うと、敵側のレーダー・スコープの画面が降ったように白濁し、目標を示す輝点が見えなくなる。CW(Continuous Wave)法と呼ばれるこの妨害方式は、敵側のレーダーが鋭敏で、わずかな反射電波に対しても感度を示す場合ほど有効である。しかし、相手側がこのECMから身を守る多少高級なECCM(対電子兵器対策)を実施すると効果が薄くなる欠点がある。
 これに比べて、不規則に変調した電波で妨害すると相手側のスコープ一面に砂がまかれたような白濁が生じる。ランダム・ノイズ法と呼ばれるこの手法に対しては、ECCMがきわめてむずかしい。
 相手側のレーダー周波数帯域がわかっている場合には、この帯域のノイズ電波を連続的に発信すれば、比較的小さな電力で有効な妨害ができる。これはスポット・ジャミング(狭帯域妨害)と呼ばれる。しかしこれに対するECCMとしては周波数アジャイル方式のレーダーを用いれば対処できる。この方式は探知パルスごとに波長を変えるので、ある周波数について妨害を受けても、他の周波数によって目標の捕捉ができる。
 この種のレーダーに対して妨害を行うには、バラージ・ジャミングと呼ばれる広帯域妨害が必要だ。相手側のレーダーが用いるすべての周波数帯域にわたって同時に妨害電波を放射するのである。しかしこの方法は、スポット・ジャミングと比較して何桁も大きな出力を必要とする。とくに航空機搭載機材で行おうとすると、重量と容量の制約から、近距離でしか有効性を発揮できない。
 広帯域妨害方式のもつこの欠陥を解決するのがスウィープ・ジャミング(掃引き妨害)だ。相手側がレーダー周波数を変動させるのに追随して、妨害電波の周波数を時々刻々変化させていくのである。
 これには当然のことながら相手側のレーダー電波の周波数の変化をつねに正確につかむ逆探知解析システムが必要である。これにはまた、ある短い時間しか有効な妨害ができないという弱点がついてまわる。
 このようないわば電波による高度な戦争に勝つには、事前のエリント、つまり電子偵察によって相手側が用いるすべてのレーダーやミサイル誘導装置の特性が精密に把握されていなければならない。KAL機のカムチャッカ上空およびサハリン上空侵入に際しては、以前から系統的に続けられていたエリントの成果の全蓄積が動員されたことは疑いない。そして、KAL機の侵入に対抗するためにソ連側が放射したすべての電波は、アメリカ側のエリント情報の蓄積をさらにはるかに豊富にしたことは明らかである。

007便は“証拠隠滅”のために空中爆発させられた?
 アメリカ側がKAL機の侵入を助けるために用いたと見られるさらに高度なECM戦術に“ディセプション(欺瞞)”がある。これは相手側のレーダー・スコープ上にニセの目標を出現させたり、KAL機の針路や距離などをまちがって表示させる技術だ。“ニセの目標による欺瞞”というのは、相手側のレーダー電波を受信した場合に、一定の時間的ズレを設定してその反射波をまねたパルス電波を送信するというものだ。これによって相手側のレーダー・スコープ上には本物の目標とは別のニセの目標が表示される。そのためマルティプル・ターゲット・ジェネレーター(多目標発生装置)と呼ばれるシステムが開発されており、相手のレーダーと同じ周波数で数千分の1秒の間隔をおいて電波を出す能力をそなえている。
 この電波は、相手のレーダー・スコープ上の映像が消えないで維持されるようなエネルギーを送達するので、多数の目標が各方面からレーダーに接近するように見えたり、いろいろな位置で勝手に飛びまわっているように見える。
 これに対して目標までの“距離の欺瞞”は、相手側のレーダー・パルスを受信したら、正確に同じ周波数と同じ波形をもったニセの反射電波を数万分の1秒というきわめてわずかな間隔をおいて送り返すのである。これによって相手側は、目標が実際より遠い位置にあると錯覚してしまう。
 しかしこれは、相手側のレーダーがパルス圧縮とか整合フィルターとか、パルス・コーディングなどのECCM技術を用いると、簡単に見破られてしまう。カムチャッカ半島のソ連レーダーには、少なくともこの程度のECCM技術は用いられていたと思われる。
 もう一つの“方位の欺瞞”は、相手のレーダーが目標を探るためのメイン・ビームのほかに、このビームからある角度だけずれた側方ビーム(サイド・ローブ)を出さざるを得ないという点を逆用する。アンテナが回転してサイド・ローブがこちらを向いたときに、こちらからニセの反射電波を発射する。こうすると相手側のレーダー・スコープには、目標がその方向からやってくるように見えてしまう。
 問題のKAL機は、事件の2週間ほど前にワシントン郊外のアンドリューズ空軍基地で改装を施されていたといわれており、そのとき、一部で言われているようなスパイ機としての偵察用機材ではなく、むしろ以上のようなECMに必要な機材の少なくとも一部を搭載したと見るべきであろう。
 そうだとすると、KAL機がミサイル命中後12分もたってから空中爆発した事実にも納得がいく。万一、海上に不時着水でもされたり、海底に沈んだKAL機の機体がソ連側に引き揚げられたりしたら、アメリカにとっては一大事だからだ。
 9月1日、シュルツ国務長官が記者会見で行った概要説明によれば、KAL機はGMT18時26分にソ連戦闘機の放ったミサイルが命中したとき、高度1万メートルであった。4分後の18時30分、レーダーサイトは高度5000メートルと報告した。さらに8分後の18時38分、レーダー・スクリーンから消えた。日本の自衛隊関係者の証言によれば、このときレーダーに映っていたKAL機の輝点はパッとかき消すように消えたという。
 単に高度が次第に下がってレーダーの探索ビームの下端に達してその外側に出た場合には、映画のフェイド・アウトのように徐々に薄くなって消える。パッと消えたのは空中爆発としか考えられない。
 いずれにせよ、このデータによれば、KAL機は最後の8分間、毎秒平均降下率は10メートル以下だったことを示している。これは航空力学的な動安定を保って滑空降下を行っていたことを示している。すなわち、機長たち乗組員の必死の努力によりKAL機は正常な飛行姿勢を保ちながら緊急着水を行うべく、高度を徐々に下げていたのだ。
 これをレーダーによって知ったNSA作戦司令部は、アンドリューズ空軍基地での改装の際にあらかじめ同機内に装着してあったブラックボックスの一つ、緊急爆破装置を作動させた──。かくて“見えない戦争”の仕掛け人は、完全犯罪を達成したとする仮説が成り立つことになる。

 


 

電子戦関連用語解説

 

エリント(ELINT)Electronic Intelligence

電子偵察あるいは電子情報収集を意味する。広義には、仮想敵国の放射するあらゆる軍事用および国家活動用電磁波をキャッチする活動を包括してエリントと呼ぶ。狭義では、これらのうちから通信用電波は除き、もっぱらレーダーやミサイルの誘導電波などの戦闘用電波の収集活動をいう。
 平時の戦略示威行動や戦時の戦闘行動を効果的に実施するには、強力なECM(Electronic Counter-Measures=対電子兵器対策。別項)を展開することが不可欠である。だがそのためには、相手側の各種レーダーの正確な位置、数、周波数やその変調方式、偏波型式、覆域半径と方位、などについての情報をあらかじめ綿密に知っておく必要がある。
 とくに味方の動きともなって示される相手側レーダーの波長や変調方式の変化、迎撃機の発進状況やそれらが搭載する機上レーダーと地上レーダーの共同行動方式、およびこれらにともなう管制電波やミサイル誘導電波変化などを詳細かつ正確に知っておくことは、相手側の防空システムを突破し、その支配圏の奥深く侵入するためにはどうしても必要である。

 

コミント(COMINT)Communicaiton Intelligence

 通信情報収集、とりわけ電波通信の傍受解読をいうが、実際には電波や海底ケーブル通信などの有線通信の盗聴、発光信号や水中音響信号の傍受解読、さらには郵便、書類の開封などあらゆる形態の通信情報の収集活動を含む。
 電波通信情報収集の場合には、単にアンテナを立てて受動的に傍受した通信を解読するだけでなく、方向探知器やレーダーを用いて発信源の位置や種類を解明したり、電子偵察機や艦艇を故意に領空領海内に接近・侵入させ、相手側の緊急通信を誘発したり、レーダーや迎撃機、ミサイルなどに動きを起こさせてそれらを比較分析したりすることが多いので、コミントはエリントに含まれることもある。大韓航空機撃墜事件の際の日本の自衛隊によるソ連戦闘機と地上基地との交信傍受テープは、コミント活動の典型的産物である。

 

テリント(TELINT)Telemetry Intelligence

 飛行中のミサイルは、速度、加速度、高度、コース、エンジン出力などの作動データを地上に自動的に報告するため、特別な電子的シグナル“テレメントリー”を送信している。これをキャッチして傍受解読する作業は戦略的にきわめて重要である。しかしこれは、赤外線探知衛星やフェーズド・アレイ・レーダーなどの戦略レーダーとの共同作業、あるいはミサイル発射計画を探り出すなどの最高度の情報活動と共同して行われるきわめて特殊な情報収集であるため、コミントのうち、これだけを区別してテリントと呼ぶ。

 

シギント(SIGINT)Signal Intelligence

 信号情報収集の意。エリント、コミント、テリントなどの電子情報活動を総合してこう呼ぶ。

 

ECM Electronic Counter-Measures

 対電子兵器対策。単に電子対策ともいう。相手のレーダーを妨害または欺瞞したり、ミサイルの誘導電波を混乱させたり、迎撃機と地上基地との交信を妨害するなど、相手側の電子兵器の機能を攪乱するあらゆる手段を指していう。
 ECMが初めて実戦に用いられたのは、レーダーが実戦配備された第二次大戦中のことだった。しかしアメリカが近代的ECMシステムの開発と作戦兵器化を行ったのは、北ベトナムの抵抗によって航空兵力が大きな損害をこうむったベトナム戦争中のことだ。1972年12月18日から29日にかけての「ラインバッカー作戦U」ではB-52爆撃機が15機も撃墜されたが、これはソ連製のレーダー連動式の地対空ミサイルにやられたのだ。アメリカはB-52に妨害電波発信装置をとりつけることによって、以後この危機を乗り切った。
 現在のアメリカの戦略空軍が配備し始めているB-1B戦略爆撃機には強力なECMシステムを搭載し、敵空域侵入能力をいちじるしく高める設計となっている。

 

ECCM Electronic Counter-Countermeasures

 ECMに対抗する対策。対ECMまたは対電子対策ともいう。味方の電波兵器の機能を相手のECMによる妨害や欺瞞から守る手段をいう。ECMの目的はジャミング、妨害、欺瞞など攻撃的なものだが、ECCMは防御的。

 


 

 


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