|
周知のように、事件の具体的経過と原因についての米ソ両国政府の公式発表には、多くの食い違いがある。しかしきわめて重要なひとつの事実については、双方とも一致した主張をしている。それは問題の大韓航空(KAL)007便機が撃墜された時点から2時間半以上も前に、すでに正規の飛行ルート「ロメオ-20」から北西に数百キロメートルも逸脱した異常なコースを飛んでいた、という点についてである。
ソ連軍参謀総長オガルコフが、事件直後の83年9月9日の記者会見の席上で述べたところによれば、同機はソ連側のレーダー網によって、カムチャッカ半島のペトロパブロフスク・カムチャッキー北東800キロメートルのベーリング海上を飛行中の時点ですでに捕捉されていたが、このときにはもう、正規の航空路から500キロメートルも西北方にズレたコース上を飛行していたという。
これよりもさき、9月1日にシュルツ米国務長官がおこなった公式発表によれば、同機はオガルコフ参謀総長が主張するコースとほぼ同じコースをとってカムチャッカ半島に接近し、その南部上空をななめに横切ってオホーツク海上に出たのち、「ロメオ-20」から西北方に600キロメートルないし700キロメートルほどズレた、千島列島線の北側のオホーツク海上のコースをとって西南進し、サハリン南端部上空を横切った、という。これは細部はともかくとして、飛行経路のおおよその基本線については、ソ連側の主張を先取りして公表したかたちになっているのである。
◆大暴走飛行はなぜ起こったか
飛行時間にして2時間半以上、飛行距離では2000キロメートルをはるかに上回るこのような大暴走飛行が、どうして起こり得たのだろうか?
遭難機には新式の自動航法システムが装備されており、操縦乗組員たちはこれに頼って飛行していたはずである。このシステムの基軸は3台のINS(慣性航法装置)であった。この装置は故障を起こすことがほとんどない信頼性の極めて高い機器ではあったが、万一の場合を配慮して、ほかの同型機と同じく、わざわざ3台を装備してあった。もしこのうち1台が正確に機能を果たさないという事態が起こっても、一種の多数決原理にもとづいて、ほかの2台が一致して指示するデータにしたがって自動操縦装置が作動する仕組みになっていた。
乗組員たちは、出発直前に飛行計画コース上の規定通過地点のそれぞれの緯度・経度を各INSに別々に打ち込んで記憶させておけば、あとは離陸して、規定高度にまで上昇し、計画針路に乗るまでの操作を手動でおこなったのち、自動操縦に切り替えるだけで、何もしなくても、各規定通過地点を経て目的地上空に到達する仕掛けになっているのだ。ボーイング747型固有のこの自動航法システムについて熟知している専門家たちは、INS3台のうち2台までが故障を起こし、3台の“意見がすべて合わなくなる”確率はほとんどゼロに近い、と口をそろえて証言している。
したがって大暴走飛行の原因は、これらの自動航法機器そのものの故障ではなく、クルーの機器操作ミスでないかという説が一部では有力視されている。つまりアンカレジで離陸前に操縦乗組員たちが、各INSに規定通過地点の緯度・経度をまちがって打ち込んでしまったのではないかというわけである。たしかにそれ以前に、民間航空会社に属する同型機が、この種の原因で正規のコースを逸脱して飛行してしまった実例があるのだ。しかし空軍パイロット歴10年、民間パイロット歴11年、ボーイング747機長歴2年半、この間総飛行時間1万時間を超すベテラン・パイロット千炳寅(チョンビョンイン)機長以下、優秀さに国際的定評のある大韓航空会社の操縦クルーが、このような初歩的ミスをおかす可能性はきわめてすくないと見るべきだろう。
いずれにせよ、問題の本質的焦点は別のところにある。まず第一にINSの故障であれ、データ・インプットのミスの結果であれ、あるいはさらにこれらとは全く別の何らかの原因によるものであれ、2時間半以上の長時間にわたって、正規の航空路から500キロメートル以上も大幅にズレたとんでもないコース上を飛んでいる事実に、操縦クルーたちがなぜまったく気づかなかったのか、という点だ。
◆航路逸脱になぜ気づかなかったのか
遭難機には、自動航法システムとは別に、地形を判別できる気象レーダーをはじめとして、INSが万一誤って作動して予定コースから逸脱してしまった場合でも、操縦クルーが地図と照合してコースをチェックする限り、誤りを発見してこれを確実に修正することを保証する技術的手段が完備していた。問題の飛行コースは、島影ひとつない大洋のまんなかを通るものではなく、アラスカ西南部、アリューシャン列島、北海道、サハリンなど、それぞれ特徴をもつ形の入り組んだ海岸線や島々がつらなっている海域上空を通過しているのである。
この点から、操縦クルーが全員眠りこんでいたのではないかとか、酒酔い操縦の可能性だとか、はてはトランプに夢中になっていたのかもしれない、などという憶測までとりざたされている。しかし他の国の民間航空会社のクルーに関してはいざ知らず、韓国人民間パイロットの気質と性格を知っている人々はみな、このような推測には一様に首をかしげる。彼らは総て軍人出身者で、しかもそのなかの超エリートであり、職務に関する責任感が強く、生まじめでむしろ融通が利かないといえるほどのきわめて手堅い性格を共通の特徴としており、特にこの種の規律無視による大失態を引き起こすことなど、とても考えられないという。
事実、撃墜される11分前、1時間17分前、2時間28分前、3時間52分前、4時間36分前などの各時点に、アンカレジや成田の地上局や、近くを同方向に飛行中だった大韓航空の015便などに、各規定通過地点の通過報告その他の飛行実務連絡を、きちんきちんとおこなっている。この間、若干の通信障害の形跡が見られることは事実だが、クルーの規律が、暴走飛行の全過程のわたって継続的に弛緩しきっていたことを示唆する兆候は、まったくない。しかも彼らは、自分たちの飛んでいるコースは、一歩まちがえばソ連領上空の軍事的重要空域に入りこみ、戦闘機によって強制着陸させられるか、ミサイルによって撃墜される可能性を十分はらんだ、世界で最も危険な空域を通過するものであることを百も承知しているはずなのだ。
同型機で、同一コースをしばしば飛んでいるわが国の民間クルーたちは、「自動航法システムを十分信頼しているが、それでも万一のときのことが心配で、レーダーによる地形判別などコースチェックに神経をとがらせざるを得ず、何度飛んでも極度の緊張を強いられる航路だ」と告白している。反共精神が強固な点で、わが国の民間航空会社のクルーたちにひけをとるとは考えられず、しかも軍人精神のきわめて旺盛なKAL機のクルーたちが、こともあろうにこの航路を飛行中におおいにはめをはずし、コースのチェックを全くおこたったなどという推測は現実性がまったくとぼしいことは明らかである。
納得のゆきかねる点は、これだけではない。問題の大暴走飛行が2時間半以上にわたってつづけられ得るためには、この間遭難機に搭乗していた操縦クルーたち自身が、自力でこのことに終始気づかないでいた、ということだけでは十分ではないからだ。少なくとも地上から彼らにたいして、この点についての警告が、まったくされなかったか、あるいはされたにもかかわらず、何らかの理由でこの警告がクルーの了解するところとはならなかったという、もうひとつの特別な条件が必要なのである。
|
◆アメリカは“救助”できなかったか
アメリカ側が主張しているところによれば、ソ連側はKAL007便機を無警告で撃墜したとされている。もしこれが事実であったとすれば、ソ連軍の防空体制には根本的欠陥があることが立証されたことになる。少なくとも現在は、まだ平時にあるのであり、侵入機をすべて撃墜すればことたりる戦時ではないのである。領空内に迷い込んでくる他国の民間機を、すみやかにそれと識別するだけでなく、適切な方法でパイロットにこのことを悟らせ、領空外に退去させるか、平穏のうちに強制着陸にうまく持ち込む実務的能力は、他の核武装諸国と対峙している核大国の防空部隊の不可欠の機能のひとつなのだ。したがって無警告撃墜が事実であったとすれば、この問題自身たいへん関心を引く現象であり、緊急の研究課題であると言わねばならない。だがここでの問題の焦点はアメリカ側がなぜ遭難機を“救助”できなかったのか、ということにある。
今日、米ソ国境付近の空域を飛ぶすべての航空機は、軍用機であろうと民間機であろうと、また国籍いかんにかかわりなく、両国の軍用レーダー網その他の探知システムによって常時、敏速かつ正確に捕捉され、継続的に追跡を受け、入念に識別されたのちも、厳重な監視下におかれる体制が確立しているはずである。巡航ミサイルやその発射母機が、わずが1機でも領空に侵入することを許せば、大都市や、核戦略警報施設、通信設備、司令部などに致命的打撃が加えられる結果となり得るからだ。侵入機が一応民間機であることが判明しても、監視をゆるめるわけにはゆかない。全面的核先制攻撃の実行を決定した側は、それに先だって巡航ミサイル発射母機を民間機に偽装させて潜入させ、相手側の核報復力の壊滅ないし無力化を計るという戦術をとる可能性があるのだ。
とするならば、この事件の発生のさいにも、ソ連側はもちろんのこと、アメリカ側もかなり早い時点にベーリング海上を韓国に向かって飛ぶKAL007便機が正規の航空路から北西に大幅に逸脱するコースをとりはじめており、そのまま針路を変えないで飛行をつづける限り、カムチャッカ半島のソ連領空をかすめるどころか正面から奥深く侵犯し、ソ連海軍の弾道弾潜水艦基地、ペトロパブロフスク・カムチャッキー上空を通過することは避けられないという判断をしていたとみてよいだろう。
にもかかわらず、アメリカ側はなぜKAL機を“救助”する具体的措置をとらなかったのか? たとえばこれに無線で正確な位置を知らせ、正規のルートに戻るよう誘導できなかったのか? 万一KAL機の受信機が故障していたとか、通信担当乗員の不注意などの理由から、クルーに連絡がとれなかった場合は、米ソ・ホットラインなどの緊急連絡手段を用いてソ連側に直ちに事実を通報し、問題のボーイング747型機は、軍事目的でソ連領の侵犯を企てているのではなく、純然たる事故による平和的な“迷い子”に過ぎないのだという保証を与え、事後の処理には誠意をもって全面的に協力することを約束し、ソ連側が撃墜するなどの非常手段に訴えることをせず、善処するよう申し入れをおこなうことが、なぜできなかったのだろうか?
ひょっとすると、探知、通信、解析、判断、命令、実行システム系列のどこかで発生した思いがけぬ故障や遅滞ないしいきちがいのため時間が空費され、カムチャッカ半島のソ連領空を侵犯する以前には、このような措置が実現できなかったかも知れない。そうだとしても、そのあとKAL機がなおも正規のルートに戻ることなく、ソ連領千島列島の北側のオホーツク海を、まっすぐサハリン南端に向かって飛び続けていた約1時間半の間、米軍およびこれと協力関係にある日本自衛隊の対空レーダー網や司令部、そしてアメリカ政府は、いったい何をしていたのだろうか? アメリカにとって、これだけの時間のなかでは、暴走機がKAL007便機であることを識別し、重大な結果に向かって事態が進行しつつあることを正確に判断し、これの救出を試みる意志決定をおこない、直接KAL機に呼びかけたり、モスクワに緊急連絡するなどの諸措置を実行することが、ハードウエアおよびシステム的な意味で技術的に不可能だったのだろうか?
◆はりめぐらした探知システム
問題の空域、すなわちベーリング海、オホーツク海水域上空は、北氷洋や北大西洋上空とならんで、米ソ両核大国の直接軍事対決の最前線である。したがってアメリカ側にとっても、この空域ないしその外側の大気圏外を飛ぶあらゆる飛行物体の即時かつ確実な捕捉と、それらの正体の可能な限り敏速で正確な識別を実行することは、文字通り死活の課題であり、国家安全保障上の最優先任務であることは明白だ。もしこの空域で、ボーイング747型機のように巨大かつ音速以下の低速でしかも8000メートルないし1万メートル高空をほぼ直線に近い単純な軌道を描いて飛ぶ目標の捕捉と識別が、1時間も2時間もの時間をかけても不可能だったとするならば、マッハ2の高速で150メートル以下の超低空を欺瞞機動コースをとって飛ぶバックファイア爆撃機の捕捉とリアル・タイムでの識別はもちろん不可能であり、さらにマッハ10以上の超高速で襲いかかってくるICBMの核弾頭の捕捉と識別は絶望であることは言うまでもない。
問題の空域には「ロメオ-20」の南側に、アラスカと日本列島を結ぶ西側民間航空路がめじろ押しに並んでおり、さまざまな国籍の民間機が毎日50便ないし100便往復している。そのほか偵察や対潜哨戒など各種の軍事的任務を帯びたアメリカや日本の軍用機が、しばしば飛びまわっている。またソ連側のいろいろな機種の軍用機はもちろんのこと、各種民生用航空機が昼夜のべつなく絶えず飛んでいる。さらにソ連は、オホーツク海や北太平洋で、しばしばミサイル実験をおこなっており、おりしも事件発生当時、最新型大陸間弾道弾SSX-24の実験がこの水域で予定されていたと伝えられる。
アメリカの対空、対宇宙警戒システムは、これらすべてを毎日24時間態勢で即時かつ確実に捕捉して追跡をおこない、それらのひとつひとつが、いずれも決して先制奇襲攻撃を目的として飛来するソ連側の正規攻撃機や擬装攻撃機、巡航ミサイルや弾道弾ではないという事実を、きわめて短い時間のうちに確実に識別する能力をもつことを要求されている。そしてさらに、ほんものの攻撃機やミサイルであった場合、攻撃の規模や目標、企図などを15分以内に判断、識別し、これに対する妥当な反撃規模を決定し指令する能力、とくに核報復攻撃力の全兵力を投入する全面的反撃が必要であるかそうでないかを極めて正確かつ敏速に判断し、必要な反撃規模に応じた適切な指令を各種戦略兵力に確実に伝える能力を保有することは、アメリカの核抑止戦略の不可欠の前提のひとつなのである。
それゆえこそアメリカは、莫大な費用をつぎこんで、きわめて大掛かりでしかも精巧で信頼性の高い機材、設備と、多数の素質的に最優秀でしかも熟練した人材を投入して、この空域をカバーできる、厳重かつ正確な対空対宇宙戦略探知システムをはりめぐらせ、グローバルな規模で確立している中央戦略司令部および大統領とほとんどリアル・タイムに近い費消時間で直結した通信・識別・解析・判断・指令システムをつくりあげているのだ。
例えば「ロメオ-20」の南側、最短距離が250キロメートルほどのところにある、アリューシャン列島西部のシエムヤ島には、最新式の対空対宇宙電波探知機「コブラ・デイン位相配列(フェーズドアレー)レーダー」が設置されており、24時間態勢で電波の目を光らせている。これは、3700キロメートル離れたところにある直径10センチの物体を同時に数百個、べつべつに捕捉追跡し、大型高速電子計算機の助けを借りて、それらひとつひとつの正体を、おのおのの運動データや形態にもとづいて、ほとんど瞬時に識別できる、という驚くべき高い性能をもっている。
もっともこのレーダーは、在来型のほかのレーダーと同じく直進する電波を用いているので、丸い地球表面の地平線の下にかくれて“見えない”遠方の比較的低い高度の空域は探査できない。したがってボーイング747型機や爆撃機などのふつうの航空機が飛行する1万メートル前後ないしそれ以下の高度に関しては、問題の全空域をカバーし得ているわけではない。それゆえこのレーダーの主任務は、大気圏下層ないし宇宙空間を飛来する弾道弾の捕捉識別にある。
1万メートルないしそれ以下の高度にかんして、この空域全体をカバーしてにらみをきかせているのは、米本土に設置されている「超地平線後方散乱レーダー」(OTH・B)である。これは散乱電波を利用して、光学的見通しのきかない地平線の向こう側の地表近くを飛来する爆撃機を、遠距離から捕捉することを主目的とした、特殊な新式長距離レーダーで、2000キロメートルも離れた地平線のはるか下を飛ぶF-15戦闘機を捕捉した実績をもっており、ジャンボ機のような大型機は、さらに遠い地点でも捕捉可能である。
これらのほかに、問題の空域の各部分をカバーできる地上対空レーダーが各地に配備されており、さらに事件発生時点には付近水域、空域にレーダー・ピケット艦や電子諜報(エリント)艦、電子諜報偵察機RC-135型が行動中だった事実が確認されている。
◆精密な米・日軍用レーダー網
問題の北太平洋から極東にかけての空域にたいする共同監視活動をおこなっている米・日軍用レーダー網は「スコーク」と呼ばれ、極めて正確で能率的な目標識別システムを運用していることが知られている。すなわち、軍用機たると、民間機たるとを問わず、また国籍にかかわりなく、西側各国当局に問題の空域を飛行する正式のフライト・プランが提出されている限りのすべての機体にたいして、飛行前にランダムな数字で固有番号が与えられ、すべての軍用レーダー基地にあらかじめ通報されている。そして各レーダーが、実際にこの機体の捕捉追跡を開始すると、スコープ上の問題の反射像(リターン)を示す輝点(ブリップ)のそばに、その数字が浮かび出すしくみになっている、というのである。当然KAL007便機にもこの固有番号が与えられ、アンカレジ離陸後撃墜されるにいたるまで、米・日軍用レーダー網によってリレー式に捕捉、追跡、識別されつづけていた、と見るべきであろう。
さらに以上の各種レーダーが事件の経過中に、問題の空域で捕捉したすべての飛行目標に関する情報とその分析結果とは、ほとんど瞬時に、核戦争中央戦略司令部である「スペース・コマンド・オペレーション・センター」に集中され解析されたはずである。このセンターは、ロッキー山脈東側のコロラド・スプリングス近くにあるシャイアン山の地下数キロメートルに設営されている。それは堅い岩盤のなかにくりぬかれた巨大な洞窟のなかに設置された霞が関ビルぐらいもある鉄筋コンクリート製の頑丈な“箱”で、大きな鋼鉄製スプリング多数によって周囲の岩壁から支持されていて、放射能フィルターなども完備しており、熱核ミサイル弾頭の直撃にも耐えるばかりなく、核攻撃後の大気や地表が致命的水準の放射能に汚染された条件のもとでも、数カ年以上の長期にわたって機能を果たし続けられる装備と準備が常に整えられている、と伝えられている。
その機能は、全面核戦争を含む各種限定核戦争やこれらにかかわる戦略的行動の指揮であり、グローバルな範囲から収集された、リアル・タイムのデータにもとづき、正確な状況判断と、各種核戦闘の火ぶたを切る指令は勿論のこと、合理的な戦略的対応行動の指示を、各基地、施設、部隊、艦隊などに対して確実に伝達することができるといわれている。当然のことながら、このセンターは、大統領が国内、国外のどこにいようと、真夜中であろうと早朝であろうと自国に関係なく、どのような状況のもとであろうとも10分以内に連絡がとれる特別緊急回線をもっている。
RC-135電子偵察機
|
◆RC偵察機はもう1機いた?
とくにRC-135型電子諜報偵察機は、大統領直属の戦略情報機関NSA(国家安全保障局)の指揮下にあり、同センターの中継なしでも、10分以内に直接大統領を含む政府首脳との間に通話連絡を確立できる「バック・チャンネル」と呼ばれる緊急通信システムをそなえているという。また同機は、機上対空レーダーや、相手側のレーダー逆探知装置を搭載しているばかりでなく、精巧な通信傍受電子装置や傍受・探知情報解析装置を積んでおり、約30人の電子戦専門技術員と数人の電子戦戦略士官が乗り込んで、電子諜報(エリント…相手側の通信傍受やレーダー活動状況の調査)活動をおこなっている。さらに必要な場合には、敵防空陣の行動諜報、分析にもとづいて、同一空域にある味方機に警告を発信したり、敵レーダーを妨害してこれを救出したりする能力をもっている、と伝えている。
この偵察機による情報収集は、衛星や地上の傍受・逆探知施設では入手不可能な、特殊なデータ収集ができるため、重要地域では365日、24時間体制でRC-135型機が飛行して電子諜報活動をおこなっているという。同機は、通常18時間ないし20時間の航続力をもっており、1機が燃料を補給するために基地に向かって帰投を開始する前に、かならずべつのもう1機が離陸し、活動空域に達してこれに交代する方式をとっている、というのである。事件直後レーガン大統領は「RC-135型機はKAL機が撃墜される1時間前の時点にすでに基地に着陸していた」と言明している。元搭乗員たちの証言から推測すれば、これはベーリング海でKAL007便機の近くを飛んでいたRC-135型機のことを意味しており、べつのもう1機がこれにかわって既に事件空域に達し、KAL機が撃墜されるまで問題の空域を飛んでいた可能性が十分ある。
いずれにせよ、ここでは、少なくとも1機のRC-135型機が、撃墜事件が発生する2時間以上も前に、その近くを飛んでいたという事実が問題の焦点となる。
(つづく)
|